ヒューズの温度上昇

図2:温度上昇

ヒューズは抵抗値を有しているため、電流が流れるとその負荷率に応じて温度が上昇します。(図2)温度上昇値は、治具の種類やヒューズの接続方法によってテスト結果が大きく異なるため、規格に定められた標準治具で測定します。実験室における温度上昇値は、実車における実測データとは異なるため、一般に、固有の車種ごとに信頼性試験を行ない、再評価を行っています。ヒューズ接続端子の材質が耐熱銅合金の場合、耐熱温度は140℃以下であるため、エンジンルーム温度を80℃とするとヒューズの温度上昇値は60℃以下が前提となります。

ヒューズの溶断特性

図3:BFNM
表1:溶断特性の規格値
図4:溶断特性

溶断特性は、ヒューズの最も重要な特性です。

ヒューズはその定格電流値と等しい電流を流し続ける能力があります。一方、定格電流値を超える電流が流れたときには、決められた時間の範囲内で確実に電流を遮断し、確実に遮断し続けなければなりません。

そのため、過電流に対する溶断時間は、各型式のヒューズごとに国際規格や各国内規格で定められています。現在最も多用されているBFMN(図3)の場合、国際規格はISO 8820-3に、日本国内規格はJASO D612に、また米国の国内規格ではSAE J2077に定められています。これらの規格に定められた溶断特性は、全て共通で、国際標準規格となっています。[規格値(表1)、溶断特性(図4)]

溶断規格値において溶断時間の上限が決められているのは、過電流が流れ続けるのを防ぎ、接続電線や電気機器等の火災・焼損を防ぐという、ヒューズ最大の使命を果たすためです。一方、下限が決められているのは、通電開始時に流れる短時間のラッシュ電流に対して遮断しないよう、耐久性を考慮されているためです。

溶断特性は、ヒューズの種類によって異なります。例えば、モーター回路ではモーターの回転立ち上がり時の比較的時間の長いラッシュ電流にも耐え得るようにスローブロー特性と呼ばれる特性を有するヒューズ(スローブローヒューズ:SBF)が使われます。ワイパー、パワーウィンドウ等のモーターを使用する回路にはSBFが、ランプなどにはBFが一般的に使用されています。

ヒューズと雰囲気温度

図5:ヒューズの温度変化率

ヒューズの金属エレメントは、過電流により発生するジュール熱によって溶断し、回路は遮断されます。雰囲気温度によって溶断に必要なジュール熱(I2Rt)は異なるため、金属エレメントの融点に達する時間に差が発生。すなわち、ヒューズの実容量は雰囲気温度によって変化するのです。

その実容量がどれくらい変化するかは、「温度変化率」で示されます。温度変化率はエレメント金属の種類によって異なり、例えば亜鉛をエレメントに用いた10A定格のBFの場合、雰囲気温度120℃での実容量は8.5Aで、変化率は「−0.15%/℃」となります(図5)。銅をエレメントに用いたSBFの変化率は「−0.075%/℃」、銅と錫の共用エレメントを用いたSBFの変化率は「−0.14%/℃」です。

ヒューズの耐久性

図6:I2t特性図

ヒューズの耐久寿命特性は、負荷率、電流波形、周囲温度などの影響を受けます。特有の電流波形が繰り返し通電された場合の寿命回数は、容量ごとに準備されたI2t特性図(図6)によって簡易的に求めることができます。

車両メーカーから要求される必要耐久回数以上の寿命を発揮できるように容量設定する必要があります。連続通電の場合には70%以下の負荷率で使用することが薦められています。

ヒューズの精度

図7:溶断時間のバラツキ

溶断時間は、単純に電流値の実数には正比例せず、通電電流値により発生するジュール熱(I2Rt)によって決まります。したがって、溶断時間のバラツキ検証や度数分布などの品質保証的検討を行なう場合には、電流値の実数で計算するとLCLが負の時間になるといったエラーが生じます。標準数(JIS Z8601)を用いて統計処理することにより、偏っていた溶断時間のバラツキが正規分布となるため、一般的な品質管理手法を用いることができます。(図7)

ヒューズと電線

図8:ヒューズの溶断特性と電線の発煙特性
表2:ヒューズの定格・電線サイズ・電線長さの関係
※表中の数字は最大電線長さ[m]を示す
※計算上50m以上となる部分は「--」で示す
※JASO D610から抜粋

ヒューズが機器や接続電線に適応し、回路を保護するためには、ヒューズの定格電流に対応した適切な電線サイズを選択しなければなりません。(図8)

①負荷電流
ヒューズは、負荷電流が定格電流の70%を超えないように選定します。負荷電流の値を決定する場合、以下のような要因を考慮に入れます。
-- 負荷電流は、連続的か? パルス的か?
-- スイッチON時にサージがあるか?
-- 間欠通電負荷か? 連続通電負荷か?
②雰囲気温度
ヒューズの溶断特性は、雰囲気温度による影響を受けるため、ヒューズが設置される場所の雰囲気温度を考慮する必要があります。ヒューズの定格電流は、雰囲気温度と容量の変化率(図5)に基づいて計算します。
③溶断電流
ヒューズを正確に溶断させるために必要な電流値は、溶断規格から決定します。
④最大回路抵抗
ヒューズの溶断特性を保証するために電線の雰囲気温度を考慮し、回路抵抗の最大値を求めます。
⑤電線の最小サイズの選択
電線のサイズは、電線の長さを考慮した抵抗値が回路抵抗の最大値より少ないサイズを選択します。代表的なヒューズの定格電流と電線サイズ・長さの関係は(表2)の通りです。

自動車用ヒューズの規格

一般の電化製品などに使用されるヒューズはJIS規格に規定されていますが、自動車用ヒューズは自動車専用であるため、国内ではJASO規格に規定されています。自動車用ヒューズのJASO規格は、(社)自動車技術会の規格委員会の下で電子電装部会ヒューズ分科会にて、自動車メーカー、ヒューズ使用者、ヒューズメーカー、第三者によって審議され、国内唯一の自動車用ヒューズの公的規格として発行されています。当社は国内唯一の自動車用ヒューズ専門メーカーとして幹事役を務め、標準化に貢献しています。

国際規格であるISO規格においては、ISO 8820で自動車用ヒューズが規定されています。そのISO標準化活動の日本対応はヒューズ分科会が行ないます。当社は日本代表メンバーとして国際会議に参加し、各国の代表と共に国際標準化の審議をしています。現在では、国内規格と国際規格の協調が取れており、JASO D612はISO 8820とほぼ同等の内容です。

自動車用ヒューズ